渓流シーズンが終わり、暇な日々が続く。眠るため布団に入ると、渓の色んな事を思い出す。特に岩魚を釣り上げた名場面が、走馬灯のように頭の中を駆け巡る。そうそう6年ぐらい前の9月のある日、とても不思議というかラッキーというか、そんな出来事に会った。
 現在人里離れた渓でも渓流釣りの競争率が高く、土曜日に多くの人が渓に押しかけている為、私は滅多に日曜渓に出掛ける事は無かった。しかしその年は子供会の役員をしていて、あまり渓流釣りに行けなかったので、シーズン終了間近の日曜日、駄目元で渓に出掛けた。期待もしていないし「ただ渓の雰囲気を味わえれば良い」と思い、ゆっくり家を出発し午前8時ごろ川に着いた。
  
 川に入ると水が少なく、益々岩魚に対する期待が無くなっていった。「まあ少しだけ竿を出して、家に帰ろう。そうそう、すぐ向こうに有る堰堤まで」そんな気分で釣り始めた。
 釣り始めると、予想に反しポツポツとアタリが有り、何尾かの岩魚を釣り上げる事が出来た。「日曜日で尚且つ遅くの竿出しなのに、またこんなに水が少ないのに、岩魚釣りを楽しめるなんて儲け物だ」と喜びながら川を堰堤目指し進んでいった。
  
 昔釣りを終えて林道をトボトボと歩いていると、山で生活しているお爺さんに出会い少し会話をしたことが有る。話の中で、今目指している堰堤に大きな岩魚が居ると言っていた。私も以前からその堰堤のプールで何度か竿を出した事があるが、良いポイントには間違いが無い。良い目に合った事もあるし、全然駄目だった事も有る。誰もが竿を出すポイントだから致し方ない。期待半分、期待を打ち消す気持ち半分で堰堤のプールに竿を出した。まずまずサイズの岩魚2匹を釣り上げた。「まあこんなところかな」と思い納竿しようとしていた。
  
 ところでこの堰堤は、水が落ちる真下にコンクリートを平らに敷き詰め、滑滝状に施工してある。普段の水量だとコンクリートの切れ目には、大き目のガン玉を付けても流れの勢いが強く、とても餌を投入する事が出来ない。でも今日は状況が違っていた。滑滝を流れる水はチョロチョロ状態。「最後にコンクリートの切れ目に竿を出してみようか」水深はわずか1m。餌のミミズを投入。すると根掛かり。このような落ち込みの中に、木の枝なんかが沈み、根掛かりの原因になることが良くある。今の状況も、このような沈んだ枝に引っ掛かったんだと判断し、竿をあおった。すると少し浮き上がってきた。「糸を切らずに済んだかな」と思ったが、何故だか横にも動く。「えっ、ひょっとして釣れてる?」ついに潜り始める。暫くのやり取りの後、水面に大きな岩魚が浮き上がってきた。
  
 その時我が目を疑う事が起きた。なんと釣れた岩魚と同じ位の大きさの岩魚が一緒に浮かんできた。「夫婦岩魚か」
 寄り添うように浮き上がってきた岩魚は私と目が合った後直ぐに水面下に消えた。釣れた岩魚を手早く取り込み、夫婦岩魚の片割れを釣り上げるべく、沈んでいった場所に餌を投入。「目が合ったから駄目かな」と思ったが直ぐにアタリが有り、夫婦岩魚の片割れも釣り上げた。メジャーで計ると両方とも32cm。こんな事は初めてだ。尺岩魚を絶て続けに釣り上げるなんて。おまけに2匹目は1匹目の様子を心配して見に来て「私も後を着いて行きます」と、後追い自殺のように針を飲み込んだのだから。
 本当に不思議な体験をしたものだ。最後に夫婦岩魚だと勝手に思い込んでいたが、なんと2匹ともメスだった。無二の親友?竹馬の友、それとも妹か姉思いの姉妹?
 数年前の秋、不思議な釣りの思い出でした。